大判例

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最高裁判所第三小法廷 平成7年(オ)423号 判決

京都市〈以下省略〉

上告人

アース名刺株式会社

右代表者代表取締役

同〈以下省略〉

上告人

株式会社サクライカード

右代表者代表取締役

大阪市〈以下省略〉

上告人

株式会社砂田

右代表者代表取締役

同〈以下省略〉

上告人

株式会社西富商会

右代表者代表取締役

同〈以下省略〉

上告人

ハート株式会社

右代表者代表取締役

同〈以下省略〉

上告人

株式会社ヤマガタ

右代表者代表取締役

右6名訴訟代理人弁護士

木下肇

土谷明

被上告人

右代表者法務大臣

中村正三郎

右指定代理人

内田高城

右当事者間の大阪高等裁判所平成4年(ネ)第2131号損害賠償等請求事件について、同裁判所が平成6年10月14日に言い渡した判決に対し、上告人らから上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人木下肇、同土谷明の上告理由2及び3について

原審の適法に確定した事実関係の下においては、被上告人のお年玉付郵便葉書等の発行及び販売が昭和57年公正取引委員会告示第15号(不公正な取引方法)の6に定める不当廉売に当たるとはいえないとした原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するものにすぎず、採用することができない。

その余の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断及び措置は、原判決挙示の証拠関係及び記録に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、原審の裁量に属する審理上の措置の不当をいうか、又は独自の見解に立ち若しくは原判決の結論に影響しない点をとらえてその違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 千種秀夫 裁判官 園部逸夫 裁判官 尾崎行信 裁判官 元原利文 裁判官 金谷利廣)

〈参考〉上告理由書

(平成7年(オ)第423号 上告人 アース名刺株式会社 外5名)

上告代理人木下肇、同土谷明の上告理由

一、 原審判決は、その理由中において(判決理由第2項)、官製葉書等の発行及び販売について、独占禁止法の適用を認めている。右判断は、極めて正当なものであり、評価出来る。

しかし、その後の論旨において、以下に述べる誤りがある。以下論ずる。

二、 原審判決理由第三項(一)2「くじ付年賀葉書について」に関する判断

1、 原審判決は、くじ付年賀葉書(図画等の記載のないもの)に関し、郵便法上、その法定額である料額印面に表された金額で販売するしかなく、くじに付けられた景品に要する費用を勘案して、くじ付年賀葉書を販売することは郵便法によっては認められていない旨判示し、独占禁止法上禁止する不当廉売に該当する余地はないとする。

2、 お年玉付郵便葉書等に関する法律(以下お年玉法という)第1条1項に、「郵政省は、年始その他特別の時季の通信に併せて、くじ付によりお年玉等として金品を贈るくじ付番号付の郵便葉書又は郵便切手を発行することが出来る」という規定がある。

右規定を受けて同法同条第2項に「前項の金品の単価は、同項の郵便葉書の料額印面又は同項の郵便切手に表された金額の5千倍に相当する額を越えてはならず、その総価額は、お年玉付郵便葉書等の発行総額の100分の5に相当する額を越えてはならない」という規定が設けられている。

3、 ところで、現実のくじ付年賀葉書の景品の総価額が、お年玉法第1条第2項に違反していることは、原審でも明らかにしている通り極めて明らかなことである(平成5年10月26日付上告人準備書面参照)。

本来、郵便法が許容しない景品を付して、しかも法定の料額印面の代金で官製葉書を販売する事は、不当廉売であることは明白である。

三、 原審判決理由第三項(一)3「図画等を記載した郵便葉書について」に関する判断

1、 原審判決は、「さくらめーる」および「かもめーる」の(図画等の記載のために要するー上告代理人注)経費は、それぞれ0.6円および0.61円にすぎず、「国が郵便の役務をなるべく安い料金で、あまねく公平に提供することによって、公共の福祉を増進することを目的として郵便の事業を行うものであり(郵便法2条)、郵便葉書の製造販売もそれに付随する事業としてなされているものであることを考慮すれば、右絵入り葉書の対価が低廉であることについて「正当な理由がない」(前記公取委告「不公正な取引方法」第6項)ものということはできず、また、それが「不当に」低い対価であるということも出来ない。」旨判示する。

2、 ところで、上記原審判決引用部分が、いみじくも指摘する如く「郵便葉書の製造販売」事業は、郵便の役務に付随する事業である。

或る特定の事業者が、主要事業とそれに付随する付随事業とを共に営んでいる場合において、右付随事業が、他の事業体との関係で、独占禁止法上の競争関係に立つ時、独占禁止法上「正当性を有する」廉売にあたるか否かの判断は、あくまで、当該付随事業自身の観点から行われなければならない。

本件に則して論ずれば、上告人等と被上告人とは、付随事業である葉書(用紙)の販売事業に関して競争関係にある。

所謂絵入り官製葉書の販売が、不当廉売であるのか否かは、主要事業である郵便役務の公共性とは全く切り離して判断されねばならない問題である。主要事業たる郵便役務は確かに公共性があり、利用者の便宜を計る必要性が大きいかもしれない。しかし、だからこそ、郵便法上、郵便役務が国の独占事業とされているのである。

現在問題にされているのは、官製葉書の販売という付随事業者としての被上告人の行為なのである。右販売が正当性なき不当な廉売であるか否かは、主要事業たる郵便役務の公共性とは全く関係がないのである。付随事業の事業者は、(主要事業と切り離して)付随事業自体の範疇の中で公正な競争を行うべき義務があるのである。付随事業において不公正な取引が為されていても主要事業が公共性があるからという理由によって、右付随事業における不公正取引が正当性を与えられることはないのである。

従って、官製葉書に図画等を記載する経費が、たとえ僅少であっても、必要である以上、右経費を全く無視して法定の料額印面の金額で販売することは、不当な廉売と言わざるをえないのである。

前記判示が、葉書(用紙)の廉売の正当性を主要事業たる郵便の役務の公共性に求めているのは、独占禁止法の解釈を誤ったものであることは極めて明らかである。

3、 また学説上、前記「正当な理由を有する廉売」として、次の如き例示がなされている。

生鮮食料品の品質が急速に低下する恐れがある場合、一定期間の経過により品質変化の恐れがある商品でその期限が切迫している場合、季節外れの商品の場合、旧型または流行遅れの商品の場合、品質に瑕疵がある商品の場合、店仕舞の場合等々である。

以上の例示はいずれも一時的な廉売であり、恒常的な廉売ではなく品質と価格による自由競争制度を本質的に破壊しない場合である。本件の場合が右いずれの場合にも該当しないことは論を待たない。

四、 原審判決理由第五項「お年玉法違反」の問題について

1、 原審判決は、判決理由第五項において、昭和63年度のお年玉付年賀葉書に付けられた賞品の総価額は、お年玉法に違反しないと判示し、さらに、仮に、右法に違反していても、上告人等の損害との因果関係が明らかでないとして、上告人の請求を棄却している。

2、 しかし、先ず、賞品の総価額の基準を仕入れ価格に基づいていることが、法令の解釈を誤ったものである。賞品の総価額は、当該賞品の消費者への販売価額によって算定されるべきものである。

少なくとも、景品としての切手の価値を切手額面でなく製造費用と解することは信じられない見解である。

3、 そして、仮にお年玉法に違反していても、上告人等の損害との因果関係が証明されていないという指摘については、次の反論をせざるを得ない。

即ち、先ず、法律によって許容されている範囲を越えて多額の賞品を付けるという行為によって、所謂お年玉付年賀葉書の販売数量が増加し、その結果、上告人等の販売出来えた所謂私製葉書の販売数量が落ち込んでいるということは、充分想像出来ることであり、さらに、原審において、上告人等の損害の立証の為に、上告人等各社の代表者を証人申請しているのである。

しかるに、原審は、右証人申請を悉く認めず結審している。その挙げ句立証がない旨判示する始末である。上告人等の立証活動を全く認めずに、証拠がないという理由で、上告人等の請求を棄却するということが、審理不尽であることは疑いの余地がない。

4、 最後にお年玉法と独占禁止法の関係について論じておく。

(一) 独占禁止法は、競争手段をめぐる不公正な取引方法の典型的類型として「不当な顧客誘引行為」(独占禁止法第2条9項3号)を定めている。またその附属法律たる不当景品類及び不当表示防止法(以下景表法という)が存在し、同法第3条には、「公正取引委員会は、不当な顧客の誘引を防止するため必要があると認める時は、景品類の価額の最高額若しくは総額、種類若しくは提供の方法その他景品類の提供に関する事項を制限し、又は景品類の提供を禁止することが出来る。」旨の規定があり、右規定に基づき昭和52年3月1日付公正取引委員会告示第3号(懸賞による景品類の提供に関する事項の制限)が出されている。同告示第2項、第3項には次の内容が記載されている。

第2項 懸賞により提供する景品類の最高額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に掲げる金額を越えてはならない。

一 懸賞に係る取引の価額が500円未満の場合

取引の価額の20倍

二 懸賞に係る取引の価額が500円以上5万円未満の場合

1万円

三 懸賞に係る取引の価額が5万円以上10万円未満の場合

3万円

四 懸賞に係る取引の価額が10万円以上の場合

5万円

第3項 懸賞により提供する景品類の総額は、当該懸賞に係る取引の予定総額の100分の2を越えてはならない。

(二) ところで、お年玉付郵便葉書等に関する法律(以下お年玉法という)第1条1項に、「郵政省は、年始その他特別の時季の通信に併せて、くじ付によりお年玉等として金品を贈るくじ付番号付の郵便葉書又は郵便切手を発行することが出来る」という規定がある。

右規定を受けて同法同条第2項に「前項の金品の単価は、同項の郵便葉書の料額印面又は同項の郵便切手に表された金額の5千倍に相当する額を越えてはならず、その総価額は、お年玉付郵便葉書等の発行総額の100分の5に相当する額を越えてはならない」という規定が設けられている。

葉書用紙の販売に独占禁止法の適用があると考える以上、お年玉法は、前記景表法の特別法であると考えられる。お年玉法が存在しない場合には、葉書用紙の販売に景品を付ける場合は、当然独占禁止法の付属法令である景表法の適用があり、お年玉法がある場合には、同法が景表法の特別法と考えるのが自然な解釈であるからである。

(三) 従って、景表法或いはその特別法たるお年玉法に違反して、景品が付けられて商品等の販売が行われた場合には、結局、独占禁止法第2条9項3号「不当な顧客誘引行為」となり、やはり独占禁止法違反ということに帰着せざるをえないのである。

原審は、景表法或いはその特別法たるお年玉法の解釈、適用を誤った違法があると言わざるを得ない。

以上

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